90年代末に「これまでの日本のロックアーティストとは明らかに異なる価値観・音楽的なバックグラウンドを持つアーティスト達」が多く登場したが、その中でもとりわけ音楽に対する造詣の深さを感じさせたのが、このくるりであった。
本作はそんな彼らのデビューアルバムなのだが、デビュー作品とは思えない渋さと哀愁を感じさせる内容となっている。
本作のサウンドのベースとなっているのは、ざっくり言うと90年代オルタナ・UKロックなのだが、そこに、くるり独自のゆったりした雰囲気を見事に反映させデビュー作でありながら確固たる個性を確立している。
また歌詞の内容もポジティヴな意味で「昭和文学」のような質感のものが多く知性を感じさせる。
「曲解説」
1 ランチ
若手アーティストのデビューアルバムの1曲目とは思えない哀愁がなんとも言えない曲。歌詞はタイトル通りカップルのランチタイムの一コマを切り取ったもの。「珈琲は冷めてしまったよ」というフレーズは「2人の関係性」を遠回しに表現しているだろう。
2 虹
90年代UKロック風サウンドに「くるりらしいゆったりとした空気感」を反映させたギターロック。歌詞は昭和の文学者が書いたような質感であり、サビの歌詞に「六地蔵」なるワードも登場する。
3 オールドタイマー
オルタナなコード進行が印象的なパンク調の曲で少しだけナンバーガール(NUMBER GIRL)風である。歌詞の内容は「電車」をテーマにしたものであり、終盤はタイトルである「オールドタイマー」というフレーズが鬼のように連呼される。
4 さよならストレンジャー
音響系アーティストのような透明感あるアコースティックギターの響きを活かした曲で、歌詞は高校時代の岸田繁(vo ,g)の事を歌っている(wiki)らしいが、歌詞を読む限り様々な解釈が可能な難解なものとなっている。筆者の見解としては「テレビの中から飛び出していった」というフレーズは「家でテレビゲームばかりしていた過去の日常」の事を指しており「内気で行動力のなかった過去の自分」との決別を歌っているのでは?!と思われる。
6 東京 ~アルバムミックス
「2 虹」同様に若手アーティストらしからぬ「ゆったりした空気感」が魅力の初期の代表曲。歌詞は東京に出てきた若者が「故郷にいる好きな女の子」のことを思い出し「色々話したい、電話したい!」という衝動に駆られるという内容(3:20〜)唐突なギターのブラッシングノイズが登場、このパートはレディオヘッド(Radiohead)の名曲「Creep」に対するオマージュであろう。
7 トランスファー
マイナー調のアルペジオを中心に展開されるヴァースと歪んだサビの対比がグランジっぽい曲なのだが、音数は非常に少なく「ロック的な破壊衝動」とは無縁な渋さがある。
11 傘
「ポストロックのような緻密さを感じる静のパート」から「オールドスクールなハードロック調のサビ」へ移行する展開がインパクト大の曲。終盤は60年代サイケを思わせる夢見心地な雰囲気が強調される。