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live at the indoor
音楽作品(アルバム/シングル)を「普通」「良作」「名作」「傑作」「神作」に分ける音楽レビューサイト

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インディーズシーンで伝説を残した「X」が1989年にリリースしたメジャーデビューアルバム。まるで「全てのパートが歌を歌っている」かのような美しい旋律を感じることができる内容となっている。

インディーズアルバム「Vanishing Vision」はハードコアの影響が大きい激しくエッジのたったサウンドを聴かせてくれたが、今作はそれがよりクラシカルに洗練された形で表現されており、「2 BLUE BLOOD」「5 X」「7 紅」などの激しく疾走する曲であってもどこか哀愁と静けさを感じる。

彼らの音楽のキーとなっているのは間違いなく「旋律」でありそれはサウンドがハードコアであろうとスラッシュメタルであろうと関係なくリスナーの脳裏に刻まれる。また歌詞の内容も素晴らしく所々に究極の自己啓発のようなフレーズが散りばめられている。本作で強烈なインパクトを残した「X」はあっという間にロックシーンの頂点に向けて駆け上がる。

    「要点」

  • 激しさをクラシカルに洗練された形で表現したメジャーデビユー作
  • 全てのパートが歌っているような美しい旋律

「曲解説」

2 BLUE BLOOD

初っ端からMAXスピードで全力疾走するYOSHIKI(dr)の強烈なドラムプレイで幕を開ける、これぞ「X」というクラシカルな旋律を感じるハイスピードなメタルチューン。疾走するツインギターはザクザクした質感でヘヴィメタルしているが確かなメロディーを感じる事ができ、「give me some more pain!!」というコーラスが当時の彼らの尖りっぷりを象徴している(2:08〜)ボーカルラインを強調したメロディックな静かなパートが挿入され(2:27〜)ツインギターによる流麗なハモりソロが鳴り響く、USヘヴィメタルと比較すると顕著だが「歌心」を感じる旋律となっている。アウトロはただでさえ強烈なYOSHIKI(dr)のドラムが最後の追い込みとばかりに畳み掛けるプレイを聴かせる。
3 WEEK END

スローテンポなX流ロックンロール。イントロはでは「しっとりと降る雨」のような透明感あるアルペジオが鳴り響くが、その合間を縫うに登場するウォームでコクのあるギターリフとベースラインがこれから起こるカオスを予感させる。BPMは「X」にしてはスローテンポといえるものになっている(1:35〜)「2 BLUE BLOOD」同様にボーカルラインを強調した静のパートが挿入されロックンロール調の曲にアクセントを与える。歌詞の内容は「幻覚」そのものである。
4 EASY FIGHT RAMBLING

シャフルビートに乗せて展開される元気の良いハードロックソング。TAIJI(b)によるワイルドな掛け声コーラスは色んな意味で「X JAPAN」では聴けないものである。アウトロではサイレンのようなギターサウンドと早弾きベースソロが炸裂する。
5 X

「X」というアーティストの魅力が凝縮されている彼らの代表曲。相変わらずドラムプレイは強烈なものになっており「屈強なサラブレットの足音」のようだ。筆者の見解としては歌詞の内容は「究極の自己啓発である」と感じる。「見慣れた愛に流される」のか、それとも「刺激に身をさらす」のかをYOSHIKIは我々に問いかけてくる(3:18〜)静けさの中でスタイリッシュに響くTAIJIのベースラインは秀逸で「激しい雨が降り注ぐ中、ふと冷静になり夜空を見上げタバコを吸う」ようなイメージが浮かぶ。
6 ENDLESS RAIN

「しっとりと優しい雨が降る街角」のような雰囲気の名バラード。TOSHIが美しいボーカルラインを歌い上げる。歌詞の内容は「消えない傷跡」について。底でひっそりと佇むながらも存在感を示すベースラインが曲にうねりを与えている(3:22〜)サビの後に用意されている「大サビ」が登場しそのままギターソロになだれ込む。やはりギターソロには歌心があり「ボーカルが歌わないボーカルライン」を代理で歌っているような旋律であり、バックでは大波のようにベースラインがうねる。終盤はサビの美しいボーカルラインが繰り返し歌われ、「悲しさを引きずりながらも生きていく」という強い熱量を感じる。
7 紅

「孤独」そのものな静かなパートから突如スラッシュメタルに変貌する代表曲。冒頭はアルペジオとTOSHIの語り調の物悲しいボーカルラインのみで構成されるが(1:58〜)これからの狂騒を予感させるようなシンバルの音は輝度が狂ったネオンのようだ。この曲のアレンジはおそらくではあるがメタリカ(Metallica) の「Fight Fire with Fire」あたりを参考にしているアレンジだと思われるがそれにしても素晴らしい展開である。(2:03〜)激しい風が吹く街のようなスラッシュメタルに変貌するが、ボーカルラインは美しくメロディーというより旋律という言葉がぴったりである。また激しいサウンドの中で「ふと冷静になった」ような感覚を与えてくれるTAIJI(b)のベールラインがやはり圧倒的な存在感を放っている(3:20〜)「これまでの激情が走馬灯のように頭の中を走り抜ける」ような間奏〜ギターソロのラインは日本音楽史に残る名演だと思う。サビのボーカルラインはもちろん素晴らしいのだが、それ以上に少年時代に「誰でも一度は感じた事がある疎外感」を歌った歌詞に意識がいく。夏の甲子園で「紅」が演奏されるのも納得である。
8 XCLAMATION

「いにしえの宴を描いた油絵」のような実験的なファンク。不規則でパーカッショナルなリズムと冷たいジェルのようなベースラインが躍動しギターサウンドは音響的でオリエンタルなムードを醸し出す。彼らのインディーズ時代のアルバム「Vanishing Vision」に収録されてる「GIVE ME THE PLEASURE」の延長線上のような曲といえる(3:04〜)宴は最高潮のところでガラスが砕けたようなピアノの音と共に遮断され、不穏な静けさを残したままそのまま終わる。
9 オルガスム

とんでもないBPMで駆け抜けるメロディックなハードコア。サウンドは「初期X」らしい狂乱そのものな内容となっている。歌詞の内容は刹那的な快楽を歌っているように聴こえるがリスナーに行動を促すような「時の檻はやぶれない」というラインが強烈。
11 ROSE OF PAIN

残虐な歴史を音楽化したドラマティックな大作。序盤は「ゆったりと雄大に流れると大河」のような展開だが(2:20〜)激しい雨のようなドラムの登場とともに急速に熱量を帯び始める。その後は恐怖すら感じるダークなオーケストラとハードなメタルサウンドが、タペストリーように絡み合うような展開に移行する(5:48〜)ヒステリーな歌詞の登場を境にソリッドなスラッシュメタルに変貌して、これまで抑制されていたhideとPATAのツインギターが檻から出てきたライオンのように暴れ、リズム隊は悲劇的な歌詞の内容と相まって一層激しく鳴り響く(7:48〜)砂漠に現れた蜃気楼のように揺らめくベースソロとYOSHIKIのヒステリーな語りが登場してそこからギターソロになだれ込み曲は最高潮を迎える。終盤は空気を引き裂くような歪んだツインギターと「タガが外れた」ドラムが鳴り響く中、TOSHI(vo)がヒステリーな詞の世界観に入り込んで全力で歌い上げる。曲全体から強烈な旋律を感じる事ができ、各パートでひとつのメロディーを奏でているようだ。

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