「テクノ」「アシッドハウス 」「アンビエント」「トランス」は元より「オルタナ」「グランジ」「インダストリアル」など「ロック的な歪み」までを取り入れた自由度の高いサウンドが魅力の3rdアルバム。
キャッチーなメロディーなどはあまりないのだが非常にメロディックな印象をもつ。多くの曲で登場する「春風」や「空」を連想する存在感抜群のストリングスが曲に「華やかさ」「彩り」を与えている。また「イビサ島×レイヴ」を連想するような開放感も感じる事ができ、「3 All That I Need Is to Be Loved」などは「ザラついた質感のロックソング」ではあるが体を思わず揺らしてしまうレイヴ感が魅力であると思う。
様々な音楽の要素を楽曲に反映させつつもアルバム全編を通して「海」「宇宙」などを感じる統一感があるように思う。このあたりの「まとめるセンス」はベック(BECK)に近いものがあると感じる。
「曲解説」
1 Hymn
「透明なクリスタル」のようなミニマムなピアノが終始リフレインされるアンビエントな質感のオープニングソング。「荒涼とした風」のようなシンセサウンドが曲をシリアスな雰囲気にしている。
2 Feeling So Real
「高速の列車に乗って宇宙を旅する」ようなイメージのスピードチューン。サンプリングされたラップやソウルフルな女性ボーカルの声がファンキーなテイストを曲に与えている。「宇宙」を連想する曲は重くシリアスになりがちだが本曲はポップに弾ける。最後は夢の終わりのように「パタン」と唐突に幕を閉じる展開となっている。
3 All That I Need Is to Be Loved
テクノアーティストが敬遠しがちな「歪んだオルタナ・ギターサウンド」を取り入れた疾走ソング。全編を通して「ざらついた質感」ではあるが「閉ざされた」感覚はまるでなくキャッチー(1:30〜)ギターソロまで飛び出すまさかの展開(1:52〜)目の前が光に包まれる「光線」のようなシンセサウンドが現れる、これを境に歪んだギターサウンドの後ろで「リキッド」のような潤いを持つミニマムなシンセサンドが鳴り響き、最後はフィードバックノイズで締めくくられるグランジー展開である。シンプルな歪みソングではあるのだが不思議なワクワクを感じる点が秀逸。これがレイヴ上がりミュージシャンの魔力だろうか。
5 Everytime You Touch Me
「アンビエント」「テクノ」「アシッドハウス 」「HIP HOP」を融合している1曲。「春の訪れを告げるフルート」のような質感のストリングスとサビにおけるキャッチーなボーカルラインがポップ。様々な要素を詰め込んだ曲ではあるが気難しさはなくむしろ開放的で「イビサの香り」がする名曲。
6 Bring Back My Happiness
ジャジーなテイストのピアノが「ミニマムなギターリフのように転がる」スペーシーな曲。サンプリングされた「It’s hard to let you go」がループされ、時折、挿入されるキラキラした電子音は「地球に降り立ったUFO」のようであり(1:10〜)間奏部は突然、「宇宙」→「ジャングル」に瞬間移動したかのような錯覚に陥るBPM早めのアシッドハウスサウンドである。
7 What Love
サイバーな歪み感を持つインダストリアル・テイストのハードコア(1:40〜)テンポがスローになり本家グランジもびっくりな泥沼のようなグルーヴを感じるパートが挿入される。終盤は「酔っ払いによるアドリブソング」のようなボーカルラインが飛び出し哀愁を感じる。
8 First Cool Five
マッシヴ・アタック(Massive Attack)を思わせるディープさとダークネスを感じる1曲。ディープでミニマムなベースラインは「モダンでモノトーンな部屋」を連想させる。この曲でも「空を舞う」ようなストリングスをフィーチャーしており、ダークではあるが同時に開放感も感じるサウンドになっている。サンプリングされた女性ボーカルのボーカルラインは「メロウな祈り」のようであり、名作RPGゲームのエンディング曲にぴったりな質感を持つ。最後は「闇に降る雨」のようなビートが降り注ぐ。
9 Into the Blue
「海の中に浮かんでいる」ような浮遊感と重力を感じるメロウな曲。やはりこの曲でも「海中に差し込むわずかな光」のようなストリングスが流れている。
女性ボーカルによるボーカルラインは儚さと力強さが同居したものとなっており、「メロディアスな祈り」風である。
10 Anthem
「イビサ島での楽しい思い出を高速で振り返る」ようなアッパーソング(1:18〜)「思い出が走馬灯のように頭の中を通り過ぎる」ようなワープ風の電子音が曲にこれまで以上のスピードを与える。時折、挿入される子供の歓声のようなサンプリングボイスがリスナーに「バカンス」を連想させる。
13 When It’s Cold I’d Like to Die
「卒業式」のような重さと終幕感を持つバラード。リズムレスで重層なストリングスをバックに女性ボーカルが「どこまでも続く地平線」のように果てし無いボーカルラインを聴かせてくれる。歌声は祈りのような幽玄さがある。最後は全ての音が「無に吸い込まれる」ように静かに終わる。