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live at the indoor
音楽作品(アルバム/シングル)を「普通」「良作」「名作」「傑作」「神作」に分ける音楽レビューサイト

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「やりたい事はなんでもやっちゃおうぜ!」というフリーな発想が他のV系バンドとの圧倒的な差別化を生んだ3rdアルバム。

「8 優しい悲劇」などで聴ける「冷たさと終幕感を感じるコード進行」は日本人独自のものであり非常に個性的である。また「アングラな匂いがするハードな曲」「王道V系チューン」「流れるようなメロディーを持つ歌謡テイスト強めの曲」など、バリエーション豊かな曲が並ぶアルバムではあるのだが「氷のような冷たさ」を多くの曲で感じる事ができる。

ルナシーの代表曲ROSIERのロングヒットにより化粧気バンドが世の中に認知され始めた頃に本作はリリースされたが、本作を最後に黒夢はV系的な表現や世界観から距離を置いたサウンドを模索する事となり90年代末のメジャーなロックバンドの中で最も尖ったバンドの一つとなっていく。本作は黒夢のラストV系アルバムと言えるかもしれない。

    「要点」

  • 「8 優しい悲劇」などで聴ける「冷たさと終幕感を感じるコード進行」は日本人独自のもの
  • 本作を最後に黒夢はV系的な表現や世界観から距離を置いたサウンドを模索する

「曲解説」

2 解凍実験

インダストリアルミュージック的なサイバーな歪み感を持つマニアック曲。「冷凍された心臓をガスバーナーで解凍する」というシュールな歌詞と「悪夢にうなされている」かのような清春(vo)の声が「呪縛」のように空間を支配しアングラな雰囲気を醸し出している。
3 feminism

「氷のような冷たさと終幕感を感じるコード進行」が特徴の疾走系・耽美ギターポップ(2:07〜)「氷の部屋に現れた黒蛇」のようなミステリアスでダークなベースフレーズが圧倒的な存在感を放つ。終盤はドラムプレイがよりタイトに直線的に鳴り響きパンク的な熱量を帯びる為、冷たい音響の曲なのだが曲を全て聴いた後はパワフルなロックを聴いたような感覚を味わえる。
4 眠れない日に見る時計

クランチなカッティングギターを中心に展開されるシンプルなサウンドをバックに「寂しがり屋な男の心情」を清春(vo)が歌い上げる。ギターサウンドは非V系な質感でザクっとしたオクターブ奏法やウォームな歪みが中心となっている。
5 Unlearned Man

歪んだベースとドラムが淡々と鳴り響く上を様々なジャンクなサウンドが無造作に転がり「散らかった部屋」のようなフィーリングを感じる曲である。 終盤は「呪文」のようにサビのボーカルラインが繰り返される。
6 LOVE SONG

耽美的なグッドメロディーが印象的なUKギターポップ風ソング。ギターの臣(g)は「センチメンタル」「どんよりと曇った空」「メタリックなきらめき」などの形容が似合う様々な音色のギターサウンドを聴かせてくれるが、どのフレーズも極めてシンプルでストレートに耳に残る。歌詞の中にある「うるさいsilence」という歌詞はその後「静けさだけがうるさく流れる」というフレーズに進化してSADSのシングル「TOKYO」で歌われる事となる。
8 優しい悲劇

「これぞV系!」という耽美さと終幕感をもつ初期の代表曲。センチメンタルなV系ソングを最小限の音数で見事に完成させている。臣(g)のギターサウンドは他の曲同様にシンプルだが非常に耳に残り、全ての音から「2月」のような冷たさを感じる事ができる。
9 情熱の影―Silhouette―

「バクチク(BUCK-TICK)」のようなサイバーな地下室感を感じるダークなサウンドではあるが、サビは「春の訪れのような華やかさと清々しさ」を感じる一癖ある曲。サビのバックでは「鈴の音」のようなキラメキを持つ電子音が清春(vo)のボーカルラインに寄り添うようにカラフルに優しく響く(2:58〜) 強烈に縮れたノイズサウンドがまるで「電撃」のようにリスナーの脳を刺激。
10 くちづけ

「神聖な雰囲気と浮遊感をもつ耽美サウンド」と「歌謡テイスト」が見事に融合されたバラードで終始「曇りの早朝」のような気怠さを感じるサウンドとなっている。歌詞の内容は「過ちによって二度と戻らない甘い関係」をノスタルジックに描いたようなイメージだ。
11 Miss MOONLIGHT

流れるようなメロディーラインが見事な王道V系なギターポップ。無くした君を「月」に喩えて喪失感を描いた歌詞は日本人の琴線に触れる内容。人時(b)のベースラインは「遠回り」のようにゆったりとスローにサウンドを支えている。
12 カマキリ

「2 解凍実験」ほどではないがアングラな匂いが濃厚なデジロック風ハードコアパンク。マニアックで陰鬱な雰囲気とハードなサウンドが見事に融合されており、後のハードコアパンク路線のプロトタイプとも言える曲となっている。「Easy money island」という歌詞は明らかに「EMI」とかけており闇に音楽業界を痛烈に批判している。
13 Happy Birthday

「これからパーティに向かうようなワクワク感」を感じるポップソング。ギター・ベース・ドラムのみのシンプルな構成だが非常にカラフルな印象であり、 ハードコアパンク曲「12 カマキリ」の後にこのサウンドを聴くと彼らの音楽的な幅広さを痛感する。
14 至上のゆりかご

「小雨が降る深夜の都会」を連想するジャジーなバラード。沈むような質感のダークなベースラインと「砕けたグラス」のような透明で鋭いギターサウンドがアーバンで落ち着いた空気をバサバサと切り刻む。

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