「アーバンで浮遊感を感じるサウンド」が魅力であった前作から大きくサウンドを変換させたアルバムで気だるくルーズなギターサウンドや「突き抜ける」「エモーショナル」といった表現がピッタリのサビのボーカルラインは90年代初頭に音楽界を席巻した「グランジムーブメント」からの影響を感じる要素である。
グランジ系アーティストは「気怠く・陰鬱なヴァース」→「叫ぶようなエモーショナルなサビ」という構造が特徴であるが、ヒムロックはグランジ的な方法論を理解しつつもモノマネにはならないように細心の注意を払っていると思われ、サウンドがハードになってもサビのボーカルラインは氷室京介特有のメロディックなものとなっている。
本作をシンプルにまとめると「グランジ以降の感覚で再構築されたハードなビートロック」と言えるのではないだろうか。
「曲解説」
1 VIRGIN BEAT (Re-mix)
「高層ビルの屋上にいる」ような熱い風とビートを感じるサウンドは「ビートロック」をハードにしたイメージであり、前作には気薄であったロック的なエッジが強調されている。タイトルをシンプルになぞるサビのボーカルラインは「ミニマムなギターリフ」のようであり洋楽的(3:00〜)ギターソロは「ハイウェイを走るスポーツカー」を連想するスピードを感じる。
2 BREATHLESS
「モダンでシャープな建築物」のようなミニマムな電子音が印象的で「淡々としたヴァース」→「突き刺さるサビ」に移行するという構造がニルヴァーナ的であるロックソング。サビのメロディーは「洋楽グランジロック的な叫び」ではなく「これぞ!ヒムロック」というグッドメロディーで非常に耳に残る。
3 SHAKE THE FAKE
冒頭で氷室京介による「犬の鳴き声」を思わせるのシャウトも飛び出す曲でグランジ的な「気だるさ」と「ザラついた質感」を大胆に取り入れている。ボーカルは生々しいものとなっており掠れ声もパッケージングされている。「グランジ旋風」が氷室京介に与えた影響は決して少なくないのかもしれない。
4 LOST IN THE DARKNESS
「何もない真っ白な空間」のような空気を感じるロックバラード。ドラムサウンドは手数こそ少ないが「大粒の雨」のようで存在感がある。この曲のサビのボーカルラインはエモーショナルであり非常に熱を感じるものとなっている。またイントロや間奏で登場する「宇宙船」を連想するシンセサウンドは不思議なプログレ匂を放っている(4:02〜)ギターソロは非常にワイルドで「全てを吹き飛ばすトルネード」のようであり早弾きフレーズも飛び出す。
5 HYSTERIA
「酔っ払い」のようなルーズさを感じるダーティーなロック。ギターサウンドは「古着」のようなヨレた質感を演出する音響として機能しているイメージだ。ベースラインは「沼」ような「ダークな湿気」を感じさせるものとなっており、曲の持つダーティーな質感に大きく貢献している。最後はタイトル通りジャンクでヒステリーな悲鳴風サウンドで締めくくられる。このアバンギャルドなサウンドはソニック・ユース(Sonic Youth)を意識しているかもしれない。
6 FOREVER RAIN
「雨後」のような湿り気を感じるバラードでミニマムなストリングスとピアノを導入しておりギターサウンドは泣き系の音色で珍しく?!ブルージーなテイストである(2:50〜)マーチ風のドラムが現れそこから「名作大河ドラマのオープニング」のように弦楽器が重厚で優雅な旋律を奏でる(4:10〜)「全てが終わった」ような静けさの中、独り言のような氷室京介のボーカルがメランコリックに響く。
7 DON’T SAY GOOD BYE (Re-mix)
「海で過ごした短い夏休み」のような開放感を感じる曲でギターサウンドは「揺らめく」ようなサイケ感を演出している。歌詞の内容は開放的なサウンドとは対照的で「過去のさよなら」がだけが消えないというナイーヴなものとなっている。
9 LONESOME DUMMY
「夜のハイウェイ」のようなスピードを感じるノリの良いロックチューン。ハードロック的なリフがリフレインされるがその合間を縫うように鳴り響く煌びやかなキーボードサウンドは「夜空に輝く星々」のようだ。サビではポップでファンキーな女性コーラスを導入しており、曲に華やかさを与えている。
11 TRUE BELIEVER
「夏の終わり」のようなセンチメンタルと熱さが同居しているロックバラード。リスナーに「何事も遅くはない、動き出せ」「愛だけを追いかけて」と熱いメッセージを送る曲でサウンドは「主張少なめのスローなハードロック調」となっており「歌を届ける」ためのサポートという謙虚さを感じさせる。