「これまでのキャリアからの劇的な変化」という文脈においては過去最高レベルのインパクトがあり、男性ボーカリストのソロアルバムとして破格のセールスを記録した河村隆一1stフルアルバム。
成功したバンドのメンバーのソロデビューアルバムは大きく2つのケースに分類できる。1つ目は「ナチュラルにやりたい事をやるケース」ルナシー(LUNASEA)のメンバーでいうとスギゾー(SUGIZO)とイノラン(INORAN)のソロデビューアルバムはこれ該当。もう1つは「ルーツミュージックをフィーチャーするケース」本作は後者に該当する。
ルナシー(LUNASEA)ファン20年越えの筆者の考察では、河村隆一という人は不器用な人間なのだが他者からは器用に思われるというタイプであると思われる。本作のサウンドは歌謡曲テイストも強い良質なポップ・ミュージックが主となっており、考えようによっては「売れ線に走った」という見方も可能ではあるのだが、それは間違った見解である。河村隆一は「ハマってしまうと徹底的にハマる」という性分をもっている。要はルーツを掘り下げるとなると本当にルーツ(幼少期〜少年時代に触れた音楽)まで辿ってしまうのである。このあたりのちょっとズレた「やりすぎ感」が河村隆一の魅力だと思う。
「ルナシー(LUNASEA)のボーカリストという先入観を一切排除して本作に触れてみると本作がいかに素晴らしいポップアルバムであるという事が理解できる。好き嫌いは別として河村隆一の声は嫌になる程に耳に残るのである。
「曲解説」
1 I love you (Album mix)
ゆったりとした波の音から始まるファーストシングルで歌詞は「恋に疲れていた2人」が出会った熱いラブソングとなっている。この曲でも相変わらず都会に対するネガティヴな感情を歌っており「壊れそうなこんな街も」とディスっている。
2 好き
「遠い日の夏」のようなノスタルジーを感じるアコースティックソング。「愛し方をしらない孤独な少年」が主人公の物語であり、この孤独な少年はおそらくではあるが河村隆一自身であろうと思われる。「首にさげた部屋の鍵が鎖みたいで」というフレーズは「少年の壊れそうな繊細さ」が端的に表されている。
3 涙色
河村隆一が「愛の伝道師」のようなスタンスで愛の重要性を説くポップチューン。「果てしない愛に触れたら争いはなくなるかな?!というラインは「純粋な子供」のように無邪気ではあるが不思議と考えさせられる。ギターサウンドはディレイを活用しており若干SUGIZO風/ルナシー(LUNASEA)。
5 Love song
「幼少期の無邪気な恋愛」をテーマにしたエモーショナルバラードで「河村隆一特有のハイトーン」が非常に美しくパッケージングされている。歌詞に「変な顔して笑わせるよ」なる歌詞が登場する。
6 BEAT (Album mix)
色褪せない夏のメモリーをビビットなポップソングにのせて河村隆一が熱唱するヒットシングル。「過去の恋愛を回顧する曲」は得てして暗くなりがちだがこの曲はメロウで軽やか。最後は失恋を100%ポジティヴに捉えた「歩き出すよ、君を知ったこの場所から」というフレーズで締めくくられる。
7 蝶々
「幼少時代の切なすぎる初恋」に対する後悔をエモーショナルに歌い上げる名バラード。「2 好き」「5 Love song」同様に幼少期の恋愛をテーマにしているが「名前も知らないあなた」というフレーズから恋の対象はおそらく年上であると思われる。曲を通して素晴らしいノスタルジアを感じる事ができる。
8 Love
果てしない海を見て「孤独な少年時代」を回顧しつつも「今までとは違う君」に対して「帰る場所になってくれたら」と願うバラード。作曲はアルフィー(THE ALFEE)の高見沢俊彦が担当(wiki)。
9 Evolution
ミニアルバム「Cranberry Soda」に収録されている「4 REAL」と同様に「何かが壊れてしまった若者のヤバいリアル」を歌っている曲。本作の中でも最もルナシー(LUNASEA)に近い質感のサウンドでミステリアスなアルペジオを中心に構成されている。歌詞は「リアルとバーチャルの感覚がバグった若者に対するアラーム」のようなイメージである。
10 小さな星
宇宙船が地球を出発する発射音で幕をあけるキラキラ・ポップチューン。「少年時代の恋の妄想」をダイレクトに叩きつけたイマジネーション豊かな歌詞が素晴らしい。「2人きりだからこの気持ちを法律にしよう」なる歌詞が許されるシンガーはそう多くはないだろう。曲中にキザな言葉を連発する主人公ではあるが、相手の女性がこの星について来てくれた真の狙いは「波」であるという事を知っているというオチまで用意されている。
11 Glass (Album mix)
「ナイーヴな男の独白」のような歌詞がインパクトの名バラード。ヒロイックなピアノの旋律、「大粒の雨」のようなビートから無条件に「夜の街」を連想するが、優雅なストリングスをフィーチャーした間奏部は「草原に一人孤独に佇む」かのような開放感を感じる。
14 Love is… (Album mix)
1人の女性に対する熱すぎる恋愛感情が印象的なラブソングであり「河村隆一=Love is」という位にインパクトのある曲となっている。冒頭の天使を思わせるコーラスはスピード(SPEED)のwhite loveに少し似ている。
16 Hope
壮大なストリングスにのせて「いつまでも新たな光を求める自己願望」を高らかに歌い上げるラストソング。「宇宙はコーヒーカップ」なる意味深なラインも登場。最後は静かに波だけが流れる。