アンダーワールド(Underworld)独自の「悩ましいダンスミュージック」が最高の形でパッケージングされている作品であり、これまで様々なサウンドでニューウェイブ的なダークさ陰鬱さをダンスミュージックに反映させることにトライしてきたと思うが、本作は「完璧な回答」といえるクオリティとなっている。
2002年はアンダーワールド(Underworld)同様に世界的なダンスアクトであるケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)もまた「サイケデリックな答え」のような強烈な作品をリリースしている点が非常に興味深い。
この2つの作品に共通している点はエレクトロニカやポストロックなどの新感覚に安易に流される事なく、自分たちの特徴を追求して「ストイックな答え」を出している点にあり両作共に音に全く迷いがなく直線的にリスナーの耳と身体にダイレクトに突き刺さる。知的な若者の「憂鬱な気分」だが「踊りたい気分」という歪なニーズを満たしてくれる神作と言える
「曲解説」
1 Mo Move
「時空が歪んだ」ような重低音と直線的でミニマムなビートが印象的。モノトーンで神聖な空間の中で鳴らされるミニマムなダンスミュージックという趣の曲。「祈り」のように透明なボーカルはリフのように短いフレーズ「that i'm chemical」を連呼する(4:12〜)リズミカルなパーカッションが曲に躍動感を与えダンスミュージックとしての強度を高める。
2 Two Months Off
「透明なベール」のようなサウンドレイヤーが幻想的な音響を奏でるシューゲイザーソング。夢見心地な雰囲気と躍動感のあるミニマムなビートが見事に融合されマッハの体感速度を感じる事ができる。またカール・ハイドのボーカルはメロディックで美しいメロディーを奏でている。
3 Twist
「早朝の海辺」を連想するようなミニマムなピアノがリフレインされるトラックの上を「鈍い光」のようなメタリックなサウンドやパーカッショナルなリズムが躍動する。終盤はビートが強度を高める展開となるが、そこに真っ白なストリングスが表れて全てを優しく包み込む。最後は「迷子」のように彷徨うビートだけが静かに鳴り響く。
4 Sola Sistim
「雨雲」のようなどんよりした質感と重さをもつスローなブレイクビーツを中心に展開されるダークソング。吹奏楽器の音の断片が曲にシリアスな緊張感と彩りを与えており、カール・ハイドのボーカルは浮遊感のある歪みが加えられており「ガラス越し」のようなセンチメンタルさを醸し出している。終盤は「わずかに感じる柔らかい光」のようなサウンドが曲に輝きを与える。
5 Little Speaker
潤った重力感が心地よい曲で囁くような女性ボーカルをフィーチャーしている。この曲でも「3 Twist」同様にミニマムなピアノフレーズがリフレインされている。序盤はモノトーンな質感の淡々とした展開だが(4:00〜)煌びやかでビビッドなシンセサウンドがミニマムに鳴り響きリスナーの頭の中を極彩色に染め上げる。終盤は全ての音が「油絵」のように揺れて眼に映る全てが光に包まれるサイケデリックな展開となる。最後は「スライム」のような音響の上をミニマムなシンセサウンドだけが「独り言」のように鳴り響く。
6 Trim
KID A期 / レディオヘッド(radiohead)のB sideソングのような雰囲気をもつ「曇りのち曇り」のような曲。「ガラスの破片」のような質感のミニマムなギターサウンドがリフレインされビートは極限までシンプルに削ぎ落とされている。
7 Ess Gee
「本当にアンダーワールド(Underworld)の曲なのか?」と思える位にアナログな音で埋め尽くされたサウンド。「幼い日のエモい思い出」のようなセンチメンタルな音響が静かに孤独に鳴り響く。
9 Ballet Lane
アンビエントな質感の透明なアルペジオを大胆にフィーチャーしたメランコリックチューン。アルペジオの旋律は「UK×美メロ系ギターバンド」と共通する「美しいがメランコリック」という類のものであり、シンプルではあるがいつまでも頭の中で反芻する不思議な魔力がある。
10 Luetin
アシッドハウスにをエレクトロニカ以降の氷の質感でアレンジしたようなラストチューン。ダンスを誘発する黒くディープな四つ打ちとメランコリックなストリングスの共存がなんとも言えない空気感を演出しており、アンダーワールド(Underworld)独自の「悩ましいダンスミュージック」を象徴する曲となっている。