「曲解説」
1 The Kiss
サイケギターが「蜃気楼」のように揺らめき「リスナーを幻想の世界に誘う」オープニングチューン。
「神秘のベール」のようなシンセサウンドが唸るギターサウンドを優しく包み込む(3:50〜)これまでロバート・スミス(vo)のボーカルラインが全く登場しない為、「サイケな実験インスト」かと思っていたのだが、突如、ロバート・スミス(vo)のボーカルが登場する。メロディーラインは「天から降りてきたメロディーを即興で無秩序に歌いあげる」ようなものとなっている。
2 Catch
クラシカルな弦楽器が奏でる牧歌的な音色が印象的なアコースティックソングで「海辺で寝そべって過ごす秋の午後」のようなリラックスした雰囲気を醸し出している。ボーカルラインは派手なフックなどはないのだが、抜群のメロディーセンスがあり耳に残る。
3 Torture
オリエンタルな音響を前面に押し出した王道キュアー (The Cure)チューン。「眩しすぎる光」のようなギターサウンドが音響を構築し「暗躍」のようなベースラインが曲にダークで立体的な疾走感を与えている。
5 Why Can’t I Be You?
弾けるホーンセクションをフィーチャーしたカラフルなポップチューン。ギター・ベース共にミニマムなフレーズをリフレインしており、キュアー (The Cure)ソングの中ではトップクラスに「ノーマルな体裁」を保っているのだが、ロバート・スミス(vo)が「ご機嫌にノリノリで歌えば歌う」ほどに不気味さを感じるというタイプの曲である。
6 How Beautiful You Are..
「夏の憂鬱」のようなメランコリックと「秋が近づく海辺」のようなメロウさが同居するポップソング。前作から導入しはじめたピアノがモダンでミニマムな耽美性を演出し、クラシカルな弦楽器が優雅で美しい旋律を奏でる。中盤以降は全ての音が「油絵」のように溶け合いリスナーの脳裏に「ビビッドなイマジネーション」を与える。
8 Just Like Heaven
「神秘的な空間にいる」かのような浮遊感が心地よい代表曲。軽快なギターのコードストロールの合間を縫ってアンビエントなピアノサウンドとエフェクティヴなギターサウンドが「蝶」のように空間を舞う。音数的に絶妙なラインを保っている曲であり、ミニマムなポップソングのお手本のような曲である。
9 All I Want
「グランジ」のような「混沌とした響き」を奏でるギターのコード進行と「クリスタル」のような神秘的な音響が奇妙に同居している曲。他のアーティストであれば「マニアック」の一言で終わる曲になると思うのだが、この曲を「異端なポップ」として成立させてしてしまう点に「破格のセンス」を感じる。
10 Hot Hot Hot!!!
流麗なファンクギターとディープなベースラインを全面に押し出している曲ではあるが、ブラックテイストを感じさせつつも「キュアー (The Cure)以外の何者でもない耽美チューン」となっている。どんなタイプの音楽に接近しようとも最終的に「自分たち以外の何者でもない音楽」として成立してしまう感じは、レディオヘッド(Radiohead)に近いものがある。
11 One More Time
「視界を真っ白に染め上げる」空間系アルペジオが淡々と響き渡る曲で、時折登場する吹奏楽器がラテン的な牧歌旋律を奏でる。歌詞は珍しく「凡人にも意味が分かる」ものとなっており「空に触れたいからもう一度抱きしめて」という内容である。
13 Icing Sugar
原始的で無造作なビートと濃厚なアラブの旋律が印象的な曲。キュアー (The Cure)らしくマニアックな曲だが「上質なジャズ」を聴いたような口当たりの良さがある。
16 Shiver and Shake
屈折したビート感を押し出したキュアー (The Cure)らしいロックチューンでBPMより遥かに速いスピードを感じる事ができる。ギターサウンドは意地でも「ロック的な歪みリフなど弾くものか!」と言わんばかりの空間的なアプローチとなっている。
17 Fight
70年代ハードロック的なブルージーを感じるギターリフがキュアー (The Cure)らしからぬラストチューン。ハードなリフが繰り返される展開ではあるが、全体的にはしっかりと「迷宮」のようなミステリアスムードを醸し出している。