「2 スロウ」「4 光について」という日本のギターロック史に残る名曲が収録されている2ndアルバムでグレイプバイン(GRAPEVINE)のキャリアを代表する作品となっている。
90年代末に多く現れた文系ギターロック・アーティストの多くは「UKギターロック」に多大な影響を受けていたと思われるが、本作に収録されているサウンドはUKギターロック的なナイーヴさの中に「ブルースの匂い」を絶妙に織り交ぜている。このほのかに香る「ブルースの匂い」と個性的ではあるが同時に「不思議な親近感と甘さ」を感じる田中和将(vo)のボーカルがグレイプバイン(GRAPEVINE)の最大の個性である。
また「2 スロウ」における繊細で混沌とした文学的表現は見事と言うほかなく個人的には何故?!彼らがセールス的な大ブレイクを果たさなかったのか?!不思議で仕方がない。
「曲解説」
1 いけすかない
「曇り空」のようなUKギターサウンドと「ほのかに香るブルースの匂い」が混ざり合った曲。田中和将(vo)のボーカルラインは日本語らしいイントネーションを活かしたパートと外国語的なイントネーションをしているパートが同居している。この感覚はまるで「邦楽を聴いているが洋楽を聴いている」ようである。
2 スロウ
「深い海」のような音響とギターサウンドが「ギターロック期のレディオヘッド(Radiohead)」のような代表曲。歌詞は「文学的な表現の塊」となっており「知的な若者の恋愛への諦念を言語化した」ようなイメージである。「めぐりあうたびに溺れる」が同時に「探りあうたびに汚れる」というラインは10代にしか理解できない心境ではないだろうか。
3 SUN
「平凡な日の昼下がり」のようなアコースティックソングからサビでエモーショナルに豹変するギターロック。この曲のサビも日本語で歌っているがイントネーションは英語風であり「UKギターロックを聴いている」ような錯覚に陥る。
4 光について
「悟りを開いた文学者が口にしそうなタイトル」の曲。サビのボーカルラインは珠玉の内容で大袈裟なメロディーではないのだが、メランコリックかつ流れるようなメロディーですぐに頭にインプットされる神ラインとなっている。歌詞の内容は
音楽シーンに身を置きこれまでと全くことなる生活を送る中で感じた「繊細な喪失感を言語化した」ようなイメージである。
若い主人公は「何もかも全て受け止められる事」が出来なかったのであろう。この素晴らしいシングル曲が大ヒットをマークしなかった事は個人的に非常に残念だ。
6 Lifework
「ガラス瓶の中で歌っている」ようなエフェクトが掛けられている田中和将(vo)のボーカルが印象的で「気怠いサイケ感」を感じる曲となっている。歌詞は「マンネリ化した交際」や「結婚生活」に対する悟りのようなイメージとなっている。間奏部では「60年代サイケ」のようなオルガンが響き渡る。
7 25
アルバム収録曲の中で最もパンク調の曲なのだが「濃厚な文系ギターロックの香り」がする歪みチューン。間奏部ではブルースハープが披露される。
8 青い魚
「海の中で揺らめく」ようなサイケな音響を感じるカバー曲。ギターサウンドは漂うようなものとなっており音響構築に徹している。歌詞は虚無的と言っていい内容で「全てを失ったものの悟り」のような内容となっている。歌詞に登場する「グロテスクな子供」というラインは中々出てこない表現である。
10 白日
田中和将(vo) のボーカルが一層気だるいブルース調のギターロック。「夢は夢のまま」というラインが「シリアスな現実」のように突き刺さる。歌詞は失恋を経た主人公が「捨てられない言葉」を抱えつつも日常を走り抜けるようなイメージである。
11 大人 (NOBODY NOBODY)
ノスタルジーな雰囲気と肩の力が抜けたリラックス感を感じるアコースティックソング。歌詞は「言葉を発するのは簡単だが、正確に伝えるのは難しい」という内容で主人公は面倒なコミュニケーションにウンザリしているのであろう。
12 望みの彼方
グレイプバイン(GRAPEVINE)の音楽性を「ギュッと凝縮した」ようなエモーショナルな曲。「真夏に咲いた花は枯れて」というラインはまるでアートスクール(ART-SCHOOL)のようである。