レディオヘッド(Radiohead)と共振するような「絶望」「空虚」を受け入れた上でのエモーショナルを追求したアルバム。
サウンド的にはUSグランジ的なざらついた歪みギターと「どんよりした曇り空」のようなUKサウンドを大胆に導入しており、また歌詞の内容はネガティヴィティを肯定するかのような痛々しいものも存在する。
ミスター・チルドレン(Mr.Children)というバンドは曲のイメージをコントロールするのがうまいバンドだと感じる。歪んだリフが印象的な曲であっても実はその歪みリフの頻度は少なかったりするのだ。要するにインパクトに残るタイミングで印象に残したい音を出しているという事だと思う。これまでの作品と比べるとオルタナ・グランジ的な質感の曲が多いが、曲のバランス感覚がこれまで同様に素晴らしいのでほとんどの曲がポップ・ミュージックとして成立しているという作品となっている。
「曲解説」
2 Everything (It’s you)
「深い森に迷い込む」ような幻想的なイントロで始まり、「サビが2回あるような大サビ」が特徴的な曲。言葉遊びもうまく「捨てぇ」と「stay」をかけている。 歌詞は他人にあまり心を開かない主人公が唯一、通じ合える「君に」対して恋とは違う形でもいいからと愛情を独白するというニュアンスの内容となっている。サウンドはミスター・チルドレン(Mr.Children)らしい最小限の音数で形成されるのギターロックで、サビでは鳥が大空に羽ばたくような壮大な展開となる。
3 タイムマシーンに乗って
グランジ的な金属的な歪みギターリフがインパクト大。ヴァースは酔っ払いのようなヨレた歌声で社会風刺的な歌詞を歌い上げ、サビはネガティブな歌詞とは裏腹にビートルズのようなメロディックなボーカルラインという展開。「haa、ha」というコーラスと低音が強調されたミニマムなホーンがポップな質感を与えている。このポップな質感がなければ良くも悪くもグランジ的なダーティーさが前面に出た曲となっていただろう。
4 Brandnew my lover
「3 タイムマシーンに乗って」同様、ざらつき歪んだグランジギターリフが登場する(1:00〜)アシッドハウス期のプライマル・スクリーム(Primal Scream)を思わせる光に包まれるような電子音に乗せて泥酔のようなテンションのボーカルラインが乗り(1:18〜)「人間のどうしょうもなさ」を呪文のように唱えるパートが曲にエッジとミステリアスさを加えている。サビは伸びやかでコクのある歌声で歌われるボーカルラインだが、歌われている内容は「放送禁止レベル」にエロティックさを持ちバックでは光を閉ざすカーテンのようにダーティーな歪みリフが鳴り響く。
5 【es】 〜Theme of es〜
物悲しいストリングスが「どんより曇った早朝」のような雰囲気を醸し出す曲。歌詞の内容は諦念や失望を受け入れつつそれでも希望を持って前に進むというニュアンス。AメロBメロのボーカルラインは抑揚がなく少しメランコリックだが、サビのボーカルラインは「どこまでも続く曇り空」のような広がりをもっている(1:50〜)煌びやかなトーンのギターソロが登場し曲に僅かな光を灯す。
6 シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜
曲を通して全てがサビのような極彩色のボーカルラインを持つ曲。「幸福の鐘のような音」が鳴り響くイントロから始まるキャッチーでカラフルで軽やかなギターポップソング。ネガティヴな歌詞や退廃的とも言える空気感のサウンドが続いた後だけにこの曲が登場したときのワクワク感はとても大きい(2:30〜)ボーカルラインとピアノとアコギだけが鳴る静かなパートが挿入されアクセントになっている(3:14〜)曲を更にカラフルにするサックスソロが鳴り響き曲は最高潮を迎える。終盤はサビが繰り返し歌われ甘い余韻を残したまま終わる。
7 傘の下の君に告ぐ
ザ・スミス(The Smiths)彷彿のメランコリックで流れるようなギターフレーズで幕を開け、サックスをフィーチャーしたジャジーなテイストのギターロック(0:43〜)Bメロのボーカルラインは歌われる内容(社会批判)と反比例するように能天気とも言える位の「不気味な明るさ」を感じるものになっておりシニカル(1:48〜)自暴自棄と自己嫌悪が混ざったような感情をぶちまけるシャウト(2:02〜)歪んだ歌声で絶望と諦念を吐き出し最後は「夢も希望もない」とまたもシャウトが飛び出す。その後に流れるサックスソロは荒廃した荒野のような虚無感すら感じる。最後は全ての絶望を受け入れた上で前に進もうとニュアンスの歌詞がわずかに登場する。これがこの曲の唯一の救いといっていいだろう。
8 ALIVE
「真っ白な空間」を連想するシンセサウンドと「独り言」のようなベースラインが空虚ささえ感じさせるイントロではじまり、空虚な気持ちや現状を受け入れた上で「苦笑いで前に進みわずかな光を見つけて歩き出す」ようなイメージの曲。サウンドは中盤までは空虚な質感が続くのだが、桜井 和寿(vo ,g)のボーカルはサビで大きな熱量を放ちわずかな光について歌う。歌詞は世の不条理に対して諦念に近い負の感情吐き出し、夢も希望もないけど光を探すことを忘れてはいけないという内容(4:36〜)これまで登場しなかったギターサウンドが煌びやか音色で鳴らされる。フレーズはメランコリックだが徐々に熱量をあげ光を感じることができる。終盤は確かな希望を感じるような眩しいサウンドが鳴り響く。
9 幸せのカテゴリー
アルバム「Atomic Heart」に収録されていても不思議ではないアーバンなソウルテイストのギターポップ。終始ノスタルジーと哀愁を感じるサウンドが展開され(1:24〜)サビでは今作で最もキャッチーでメロウなボーカルラインが聴くことができる。メランコリックな質感のボーカルラインが多い本作の中では異色の響き(3:16〜)ウォームなギターサウンドと煌びやかオルガンからなるソロパートが挿入される。終盤は哀愁あるサウンドをキャッチーなボーカルラインが混在して独特な雰囲気となる。
12 Tomorrow never knows
高層ビルから見下ろした夜景のようなアーバンな雰囲気の曲。煌びやかな電子音が星々のように輝くサウンドの上をサックスが縦横無尽に駆け回る。
サビのボーカルラインは歌詞の内容と相まってどこまでも続く地平線のように果てしない(3:08〜)誰も知ることのない明日を歩む事を決意した主人公の背中を強く押すような壮大なサックス(!?)ソロが鳴り響き曲は終盤を迎える。最後は全てのパートが綺麗にまとまり霧のように消える。