日本のロックバンド/グレイ(GLAY)のメインソングライターであるTAKUROと共作した曲も収録されており「R&Bテイスト」が濃厚であったデビューアルバムと比べ多面的な表現力が増した2ndアルバム。
「1 Wait & See 〜リスク〜」「7 Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)」のサビで聴く事ができる「メロディックに突き抜ける」ような華やかなボーカルラインは前作には見られなかった類のもであり、TAKUROと共作した「5 ドラマ」などの数曲では「曇ったレンズ」のようなイメージの音響を感じる事ができる。
筆者の予想では宇多田ヒカルという人は「相当な音楽マニア」なのでは?と感じる。本作の特徴の一つとして「ロック」への接触があげられると思うのだが、世間一般の所謂「ロック」というよりかはどちらかと言うと「センスの良い一部」に支持される音響志向の「ポストロック」などからの影響を楽曲に落とし込んでいる。「7 Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)」における「メロディックな暗号」のような電子音などは「ポストロック」以降の響きであると感じる。もちろん、多くのリスナーはそんな事は気にもしていないのだが。
「曲解説」
1 Wait & See 〜リスク〜
「強風が吹いている」かのような疾走感を感じるサビのボーカルラインがインパクト大の曲。これまでの作品と比較して非常にメロデックなボーカルラインであり歌詞のテーマは「リスクと中毒性が高い恋愛」についてであると思われ、「遠くから遠くへ逃げたらラクになるのかな?」というラインは、当時の宇多田ヒカルが置かれていた「カオスな状況からの逃避願望」であろう。最後は宇多田ヒカルの乾いた笑い声で締めくくられる。
2 Can You Keep A Secret?
「君の理想」に近づきたいという上昇志向と「近づけないよ」という後ろ向きな気持ちが交差する複雑なメッセージをアーバンなシンセポップに乗せて歌うヒットシングル(3:15〜) 「軽やかな舞」のようなミニマムなギターサウンドが静けさを強調する。
3 DISTANCE
「夢の中の夢」のような浮遊感を感じる曲で「春の訪れのようなキラキラした電子音」「海底のようなディープさをもつなベースライン」
「ミニマムなカッティングギターの断片」を中心に展開される。サビのボーカルラインは「入学式」のような清らかな風を感じるものとなっており「1 Wait & See 〜リスク〜」同様に非常にメロディックである。
5 ドラマ
TAKURO/グレイ(GLAY)と共作された曲で他の収録曲とは明らかに異なる「気だるいサイケデリック感」があり、曲を通して「曇ったレンズ」のような音響である為「音量の調節に困るタイプの曲」である(2:20〜)ディレイを使ったギターソロは「天まで伸びていく光線」のようでありUSオルタナ風。「GLAYでは出来ない事」というポイントは本曲のテーマの一つであると思われる。
6 Eternally
「悩みに対して自分なりの回答が出た」ような迷いのなさを感じる力強いバラード。「いつまでも側にはいられない」「戦いに出かける前の一休み」なるラインから「戦場に向かう前の男が彼女と過ごす幸福な時間」を連想する。
7 Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)
「メロディックな暗号」のような電子音が宙を舞うポップソングで「5 ドラマ」同様に「曇ったレンズ」のような音響を感じる事ができる。
歌詞は「あまり会えない現状に対する不安」を歌っており、サビではこれまで強がって隠してきた弱さをエモーショナルに打ち明けている。
9 蹴っ飛ばせ!
歪んだギターサウンドをフィーチャーしており「輝度が狂ったネオン」のようなシンセサウンドが眩しすぎる宇多田ヒカル流・スペーシーロックチューン。ドラムは「強パンチ」のように「ダン、ダン、ダン、ダン」と力強く鳴り響く。
13 HAYATOCHI-REMIX (Bonus Track)
ディープで「鈍器」のような質感のベースラインが存在感を放ち、イマジネーションを掻き立てる多様な音が挿入される。曲を通して「海面で寝そべっている」ような浮遊感を感じる事ができ、時折、登場する「海底」のような質感のサウンドは非常にサイケである。