90年代の日本の音楽シーンの中でも指折りの個性的バンド/シャ乱Qの5枚目のアルバム。イロモノ扱いされがちなド派手なビジュアルから色んな意味でノリノリのバンドだと思っていたが、アルバムを通してじっくり聴きこんでみるとパブリックイメージとは異なり、音楽的な多彩さとジャズやソウルなどを基盤にしているアダルトな哀愁をもっている事に気付く。
ギターサウンドが全面に出てくるバンドが多かった日本の音楽シーンにおいて、ジャズやソウルから影響を受けたと思われるアダルトなサウンドに
はたけ(g)のギターサウンドがアクセントになっている。この良い意味で浮いたギタリストの存在は、ジャンルは全く違うがブラー(Blur)のようなバランスであると感じる。このバランスが次作以降どうなるのだろうか?!
「曲解説」
1 さんざん言ってんだぜ
霧がかかった空気感が気だるい早朝を連想させるアーバンなソウル。モノトーンな質感のキーボードが「いい部屋に一人で住んでいる男」を連想させ、
チャカポコと鳴るワウギターや残響のようなギターサウンドはが高まる鼓動ように鳴り響く。(3:15〜)部屋全体を包み込む白いベールのようなシンセの上をジャジーなキーボードソロが鳴り響く。つんく♂(vo)のボーカルラインはシックで落ち着いたものになっており、歌詞の内容はホストの生々しい片思いという感じ。
2 ドラマティックに -’90 Dream-
全編にわたりディレイをかけた空間系ギターサウンドが鳴り響くニューウェブ風ポップス。
この曲のギターサウンドはラルク アン シエル(L’Arc〜en〜Ciel)やルナシー(LUNASEA)に近いものがある。
(1:06〜)歌謡曲テイストではっきりしたボーカルラインの隙間を縫うように鳴らされる煌びやかなキーボードが曲に活力を与えており、
空間系ギターサウンドをフィーチャーしたニューウェイブソングは、下手するとダークで箱庭なものになる事が多いのだが、
シャ乱Qというフィルターを通すと不思議と明るく聴こえる。
3 Good-byeダーリン
激しい雨のように連打されるキーボードが印象的なジャジーなポップロック。終始鳴り響くキーボードの上をミニマムで歪んだギターリフが乗り、タイトなリズムはビシッと曲を引き締めている。(0:44〜)「ブルース調の歌謡」という趣のボーカルラインをつんく♂(vo)がしゃがれた声で歌い上げる。ブルージーで熱量のあるサビとボーカルラインがありながらも、「熱い感じ」ではなくむしろアーバンで落ち着いた印象を受ける。
4 ズルい女
夜の街やネオンを連想するトランペットの音が印象的なヒットシングル。アダルトなトランペットとチャカポコしたなギターサウンドが終始鳴り響き空気感を演出。(1:12〜)虹のようにカラフルなキーボードがアダルトでムーディーな曲に色彩を与え(1:26〜)「ズルイ女」に対する恨み節と未練を歌うキャッチーなメロディーラインが登場(1:58〜)トランペットによるソロパートが鳴り響く中、時折、ソウルフルなつんく♂(vo)のシャウトが炸裂。最後までアダルトでゴージャスなトランペットが響き渡る。
5 DA DA DA
ジャジーな雰囲気とグルーヴィなギターリフが共存するハードな曲。サウンドガーデン(Soundgarden)のようなスローでグルーヴィなギターリフが印象的でつんく♂(vo)のボーカルラインもリフのように短いものになっている。(2:53〜)他の曲とは明らかに異なる質感の泥水のようにうねりまくるグルーヴィーなギターソロが登場する。彼らなりにUSグランジを消化した曲と言えるだろう。
6 空を見なよ
「白い絨毯乗って空を飛び回る」ような空間的な広がりを感じるギターポップ。全てのパートがミニマムな音数で構成されて1つに溶け合っている。歌詞は「人生、先のことはわからないから今を生きよう」という内容。終盤はサビが繰り返しリピートされる。(3:26〜)バンドサウンドが止まり最後はピアノの調べとボーカルのみの展開となりしっとりと終わる。
7 ROBERT
リラックスした雰囲気のジャジーなポップロック。ジャージーでシンプルなサウンドにはたけ(g)のグルーヴィーなギターリフが絡む。
歌詞は「自分のやりたいことをやろう、人がどう思っても」という内容で周囲を気にして行動を起こせないリスナーの背中を押してくれる。
(1:02〜)キャッチーでポップなボーカルラインをもつサビが登場(1:30〜)夕日のような哀愁があるハーモニカソロが響き渡り曲に渋みを与え、
終盤は「人生はギャンブル」だと言い放ちシャウトを連呼するファンキーな展開。
9 SANAFE
「季節の終わり」のようなメランコリックなピアノの旋律が印象的なバラード。つんく♂(vo)のエモーショナルで繊細なボーカルラインが美しく、終始鳴り響くメランコリックなピアノの旋律は「誰もいない真っ白な部屋」のようだ(1:45〜)そこに哀愁感ただようブルージーなギターソロが鳴り響く(2:13〜) 「ダダン、ダダン」というドラムを合図に「曇り空」のような重さをもつバンドサウンドが加わり曲を重厚にして最後は静かに残響だけが残る。
10 ピエロ
カラフルなシンセと歪みギターが絡む80年代ライクなシンセロック。イントロはゴージャースなシンセで幕を開けて、そこに空間系の歪みギターが絡み空気感をさらに豪華に飾る(1:04〜)サビではシャワーのような煌びやかシンセ音が鳴り響き(2:56〜)残響が心地よいリバーブのかかったギターソロが登場。「過剰な煌びやかさ」が無条件にバブルを連想する。最後はブレイクの後、物悲しい春風のようなピアノの調べで終わる。