アルバム「TEAM ROCK」「THE WORLD IS MINE」はエレクトロニカ・ポストロックなど「当時の先端音楽を大胆に取り入れた」実験的な作品であったが、今作「アンテナ」ではシャープなエレクトロサウンドがほとんど登場しない。
前作「THE WORLD IS MINE」はナチュラルで心地よい虚無感を感じるシリアスな作風であったが、本作のサウンドはアルバムジャケットとリンクする作風であり、どこか「祭」のような華やかさがある。
シンプルなロックサウンドで「リスナーの頭の中にイメージを想起させる曲を作る」のは非常に難しいと思うのだが、くるりはこれまで同様、いやそれ以上に「リスナーの頭の中にイメージを想起させる曲」をアナログ×オーガニックなロックサウンドという文法で作り出す事に成功している。
朝の気怠さ透明感をパッケージングし映画のワンシーンのような世界観を表現している「1 グッドモーニング」。ゆったりしたバラード調から和風でノリの良いロックンロールに転調する展開でシンプルでありながらしっかりとグルーヴを感じる「2 Morning Paper」。「脳みそをグチャグチャにする」ような強烈な和のグルーヴを感じる自虐サイケ「5 Hometown」。歌詞に登場する「真夏の太陽」のように眩しすぎる音響を感じる「10 How To Go 」etc。
本作はバラエティーに富んだ様々な曲を収録しているロックンロールアルバムではあるが、くるり特有の「ゆったりとした和の雰囲気」は健在であり「どのような音楽を自分達のサウンドに取り入れてもナチュラルに自分たちのサウンドになるんだ!」と高らかに宣言するようなアルバムとなっている。
「曲解説」
「2 Morning Paper」
「霧の中にいる」ような音響を前面に押し出したUKギターロックで初期のアルバム「さよならストレンジャー」に収録されていた曲よりもキャリアを経ている分、洗練されていると印象を持つ。ゆったりしたバラード調から和風でノリの良いロックンロールに転調する展開や
シンプルでありながらグルーヴを感じるサウンドなどは、新加入のドラマー/クリストファー・マグワイアの貢献が大きい。
「3 Race」
「レトロで渋い音楽をルーツとするUK若手アーティスト」のようなサイケを感じるスローテンポの曲。シンセやサンプラーなどは使われていないが「幽玄」と形容したくなる音響は前作と共通する要素である。シンプルなロックサウンドではあるが、リスナーのイマジネーションを刺激し様々な景色を思い起こさせる。
「4 ロックンロール」
「難解な問題を解く事に疲れ果て、何かが吹っ切れた」ようなシンプルなタイトルと「淡々としているが何気に充実している日常」のようなシンプルでチカラ強いロックサウンドが印象的なシングル曲。2000年代前半は世界的に「ロックンロール・リバイバル」なるムーブメントが起きたが、この曲はくるりからの「ロックンロール・リバイバル」に対する回答であると思われる。ロックンロールと言えば性急でワイルドなものが多いのだが「くるりのロックンロール」はどこまでもマイペースで「ゆったり」という表現がピッタリなものとなっている。
「5 Hometown」
「脳みそをグチャグチャにする」ようなワウギターがこれまでのくるりにはないサイケ感を醸し出しており、曲全体から「強烈な和のグルーヴ」を感じる事ができる。歌詞は故郷/京都を離れて活動する自分たちを自虐した内容(wiki)との事だが「逃走5年、盆地23年」という表現はヒップホップ的であり、ご丁寧に韻も踏まれている。
「8 花の水鉄砲」
前作に収録されていた「3 GO BACK TO CHINA」に似た中華的なコード感を感じるミニマムなロック。シンプルで少ない音数で構成されているサウンドだが、タイトなドラムが全体をビシッと引き締めている。歌詞はミステリアスな内容で「昭和の文豪が酔っ払っている時に書いた乱文」のようである。
「10 How To Go 」
クリストファー・マグワイア(dr)による「here we go!ロックンロール」というノリの良いカウントで幕をあけるシンプルなロックンロール。少ない音数で「静」→「動」のダイナミズムを上手く表現した曲。シンプルなアレンジが多い本作収録曲の中でもとりわけシンプルな構造なのだが、歌詞に登場する「真夏の太陽」のように眩しすぎる音響を感じることができる。