伝説のパンク・アーティスト「セックス・ピストルズ(Sex Pistols) 」が残した唯一のオリジナルアルバム。サウンド的にほぼ全ての曲に統一感があり「アグレッシヴなパンクサウンド」で埋め尽くされている。
「セックス・ピストルズ(Sex Pistols) 」の最大の特徴は「明らかにノーマルではないイントネーショーンでコミカルですらあるジョニー・ロットン(vo)のボーカリゼイション」にこそあると思うのだがサウンドにも「計算されていないようで実はされているキャッチーさ」がある。
代表曲「8 Anarchy in the U.K.」などは言葉を選ばずに言うと「オラついた良質なポップ・ミュージック」であり、一度聴くとメロディーやサウンドが耳から離れない中毒性がある。「12 E.M.I.」は所属していたレコード会社(EMI)を痛快なまでに批判するパンクロックのお手本のような曲でパンクロックの歌詞=「反抗的・批判的という方向性」に大きな影響を与えたと思われる。
「曲解説」
1 Holidays in the Sun
「軍隊の行進」SEから始まるパンクチューン。「捲し立てる」ようなジョニー・ロットン(vo)のボーカルは「明らかにノーマルなイントネーションではなく」舐めきっている。この「頭のネジが外れた」ようなハイテンションは当時とんでもなく斬新であったに違いない。
2 Bodies
ホーラーテイストのハードロック風ギターフレーズで幕をあけて、そのままハイテンションなパンクチューンになだれ込む曲。歌詞の中で「俺は動物ではない!」(I’m not an animal)と主張しているが、サビで「Bodies!!」と叫ぶジョニー・ロットン(vo)のボーカルは「狂った狂犬」のように危険である。
4 Liar
「嘘つき野郎」をヒステリーなテンションでディスり倒すシンプルなパンクチューン(1:30〜)ギターソロは同じポジションでチョークアップ・ダウンを機械的に繰り返すというものになっており「テクニカルなハードロックやプログレに対する一種のアンチ」のような質感である。
5 God Save the Queen
「俺にもお前にも未来なんてない!!ノーフューチャーだぜ!」と言い放つ身も蓋もない代表曲。タイトルの和訳は「女王様万歳」ではあるが、歌詞の内容は悪意に満ちた皮肉で溢れている。
8 Anarchy in the U.K.
パンチの効いたロックンロールに乗せて「俺はこの街でアナーキストになる」と大胆に宣言する代表曲。「アナーキストになりたい」という「ワルなモチベーション」は、どう考えても問題だがこの「ある種の志の高さ」は見習うべきであると思う。筆者はこの曲を聴いてはじめて「アナーキー」「アナーキズム」という言葉を知った。歌詞の中に「I use anarchy(アナーキー)」なるフレーズも登場「アナーキを使うという発想」は「オラオラ系パンクス」からは出てこない発想であり、インテリなジョニー・ロットン(vo)らしい。アナーキックな歌詞がインパクト大の曲だが、サウンドにはご丁寧にキャッチーなギターソロも用意されておりアルバム収録曲の中でも最も「ポップソングとしての体裁」があると感じる。
9 Submission
「沈んだ」ような気怠さを感じるスローなリフロック。他の曲と比較するとやや異なるテイストであり、ギターサウンドはオールドスクールなハードロックのようである。
10 Pretty Vacant
ノリノリなサウンドと威勢の良いボーカルとは裏腹に「空虚な自分たちを皮肉った」虚無感を全面に押し出した歌詞がなんとも言えない曲。歌詞の和訳を読み込むまでは頻出する「we so pretty」というフレーズから「イケてる俺たち」を自称するご機嫌なナンバーであると筆者は勘違いしていた。
12 E.M.I.
所属していたレコード会社(EMI)を「明らかに舐めきった歌唱法」で痛快なまでに批判するパンクロックのお手本のような曲で多くのパンクアーティストに影響を与えたと思われる。90年代の日本の音楽シーンでは黒夢がこの曲からインスピレーションを受けたと思われる「カマキリ」という曲をリリース※EMIの事を「Easy Money Island」と痛烈に批判※セックス・ピストルズ(Sex Pistols)は「既に利害がなくなったレコード会社(EMI)」をこの曲で強烈にディスった訳だが、黒夢の場合は「EMI」に所属しているアーティストという立場でありながらEMIをディスった。この場合どちらが「パンク」としてイケているのだろうか?!コアなパンクリスナーに聴いてみたいものである。