ハードロックを突き詰めた前作「Brotherhood」から1年後にリリースされた作品「90年代ヘヴィロック」への接近と中国風のメロディーの導入が大きな特徴としてあげられ、またヘヴィネスをより強調するために浮遊感のある音色や展開も多い。これまでとは明らかに質感の異なるノイズサウンドや不穏な空気は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)やナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)からの影響を感じさせる。
「9 Raging River「14 今夜月の見える丘に」などのボーカルラインは「雨の上海」や「中国の大河」といった景色を連想してしまうような質感をもっており、前作「Brotherhood」同様にハード・ヘヴィなサウンドが主だが、そこにこれまでにない色彩や質感を与える試行錯誤を感じる。
「曲解説」
2 Seventh Heaven
SEはロボットが何かを囁いているような電子音。前作ではほとんど聴くことができなかったカッティングギターのリフが登場してBメロのボーカルラインの裏でなるリフはダークでこれまでにない質感のものだ。またイントロやサビ部分ではカラフルなホーンセクションが鳴り響きビーズ(B’z)らしいポップソングに仕上がっている。
3 信じるくらいいいだろう
「2 Seventh Heaven」を聴いて「本作はポップな作品かな?!」と思った矢先、ハードなギターリフとパワフルなドラムが鳴り響く。本曲は終始、ハードでダイナミックなサウンドが鳴り響くシンプルな曲だが、(2:20〜)ギターソロは少しシューゲイザーのようなノイズサウンドになっている。松本 孝弘(g)がこのようなプレイを披露したのは初めてでこれまでどんなサウンドでも「伸びやかでコクのあるギタートーン」を聴かせてくれたので、このギターソロはかなり意外。
4 RING
ギターフレーズとストリングスからなるイントロは「中国の大河」を連想。前作でも登場した空間系でクリーンなアルペジオが曲中で頻繁に登場し神聖な空気感を作り出すしヴァースのボーカルラインも「中国の大河」のようなメロディーを奏でて哀愁があるが、サビのボーカルラインと裏で鳴り響くギターサウンドはパワフルでハードなビーズ(B’z)サウンドとなっている。「神聖で浮遊感のあるパート」と「ハードなビーズ(B’z)サウンド」がクロスしている。
5 愛のprisoner
ガッツリと歪んだヘヴィリフが繰り返され、ボーカルもエフェクトが歪んでいる。サビ前のボーカルラインの裏ではまたもエフェクティブな空間系ギターサウンドが鳴り響き浮遊感を感じるが、サビではパワフルなボーカルラインとヘヴィなギターリフでストレートに攻める。本曲は神聖な雰囲気→ハードサウンドに移行する展開が繰り返される(2:22〜)トム・モレロ(g)/レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)を彷彿とさせる暴風のようなエフェクティヴなノイズプレイが登場してその後ギターソロが始まる(2:58〜)これまたトム・モレロ(g)/レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)彷彿の鋼鉄を切り裂くレーザーのようなバンギャルドなギターサウンドが登場。ヘヴィなサウンドに+aを追加しようとする創意工夫を感じる。wikiを見ると当時、稲葉浩志(vo)はレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)に影響を受けていたらしい。納得。
6 煌めく人
ヘヴィなギターリフがグルグルと回り続ける。この曲では稲葉浩志(vo)がザック・デ・ラ・ロッチャ(vo)/レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)のようなハイテンションでアグレッシヴなラップにトライしている。これまたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)の影響が出ている曲。
7 May
メロディックなピアノの旋律が流れ「シャボン玉の中にいる」ような不思議な揺れた空気感を持つバラード(2:40〜)HIPHOPのビートとDJのスクラッチが登場してその後、ギターソロがプレイされる。ギターソロの音色はこれまでの松本 孝弘(g)のプレイでは聴いたことがない浮遊感があるものになっている。
9 Raging River
「雨の上海」を連想するウェットな響きを感じる大曲。冒頭はクリアなアコギのストロークを中心に展開され、そこに透明感のあるアルペジオや雨のようなピアノのフレーズが乗りウェットな質感を感じる(2:23〜)歪んだノイズ音の登場とともにハードでダイナミックなサウンドに切り替わる(3:10〜)ハードなサウンドがピタリと止まりポツポツと降り注ぐ雨のようなピアノが流れ、その雨音を重厚なストリングスが包み込み展開。そこにオペラ調のゴージャスなコーラスとタイトなリズムが加わる。メロディーラインはどことなく中国風(4:05〜)重厚なストリングスが作り出した不思議空間を天まで届くような光線のようなギターソロが引き裂くがギターソロが終わった後は雨音のようなピアノとしっとりとしたボーカルラインだけの展開となる(5:40〜)歪んだノイズからハードなサウンドに移行するが、ストリングスはずっと鳴り響いてたままなので浮遊感も感じる(6:50〜)最後は冒頭のクリアなアコギのストロークが静かに流れる。
10 TOKYO DEVIL
残像のようなストリート感のあるエフェクティヴSEではじまり、曲を通してジャンクなストリート感を感じることができるハードチューン。インダストリアル的要素を曲に影響を反映させた新機軸である(0:23〜)不穏な雰囲気を醸し出すエフェクトをかけた稲葉浩志(vo)の声と金属的な響きのザクザクギターサウンドがインダストリアル風(0:54〜)うねる煙のようなオルタナ風ギターフレーズも聴くことができる。
13 扉
「宇宙空間にいるような浮遊感を感じるパート」と「時空が歪んだようなヘヴィサウンドのパート」で構成された曲。宇宙空間に「ピィー」という機械音が流れ続け(1:14〜)遠く離れた故郷を思い出すような渋いアコギソロが絡み浮遊感と哀愁を感じる空間ができあがる。「宇宙的な静けさ→ヘヴィなサウンドに移行する際に感じるヘヴィネス」と「ヘヴィなサウンドが宇宙に吸い込まれるような静けさ」という両極端を感じることができる。
14 今夜月の見える丘に
イントロは「中国の大河」を思わせるアルペジオが鳴り響き、「ジャージーで柔らかく空気感のヴァース」と「ハードなサウンドなサビ」という構成になっている。サビのボーカルラインもやはり「中国の大河」を連想する(2:28〜)「梅雨の晴れ間」のようなピアノの調べと「浅い夢」のような揺らめくようなアコギフレーズが絡み安堵感を与えてくれる。終盤はコクのあるギターソロが鳴り響き、その後、サビが連続で繰り返される。最後は「イントロの中国の大河フレーズ」が響き渡り曲は終わりを迎える。