1stアルバムに初期のシングル集を盛りこんだコンピレーション・アルバム。アルバムジャケットは現在の感覚で見ても「ミニマム×モダン」なものとなっており、このアルバムのサウンドを見事なまでに可視化している。
パンクからの影響をほとんど感じさせない「無国籍な浮遊感」をミニマムな音数で描くそのサウンドは70年代的なゴージャスさ・ハードさとは対極にある。
また本作の中に収録されている曲の中には「マニアック」と形容したくなるような「非売れ線」なサウンドも多く存在していのだが、それらのサウンドも「稀代のメロディーメーカー」であるロバート・スミス(vo)のボーカルラインと交わる事で、全ての音が有機的に機能するキューアー(CURE)マジックがかけられ「アブノーマルな異形なポップ」として成立している。
「曲解説」
1 Boys Don’t Cry
キュアー(CURE)独自の「無国籍な浮遊感」が心地よいギターポップ。リズムはパンク的で直線的なビートとなっているがプラスティックな質感で「おもちゃ」のようなポップネスがある。ロバート・スミス(vo)が歌うボーカルラインは曲を通して「流れる」ようなメロディーとなっており、他の二ューウェイブ系アーティスト達に対して「才能の違いを見せつける」かのごとく素晴らしいものとなっている。
2 Plastic Passion
手数の多い変拍子ドラムがグイグイと引っ張るミステリアスな曲。ギターは「気怠い退屈な日常」のように同じフレーズをループしており脇役として静かに佇んでいるようなイメージである(1:17〜)メカニカルで淡々とした展開を「メランコリックなサーファー」のような早弾きベースラインが切り裂く展開をみせる。
6 Jumping Someone Else’s Train
タイトなロックンロールをキュアー(CURE)流にアレンジしたようなイメージの曲でありキュアー(CURE)の魅力がギュッと凝縮されている素晴らしい曲。焦燥感を感じるビートの上をシャープで「ガラス」ような透明感を感じるギターサウンドが踊り、ベースラインは「砂漠の蛇」のようにミステリアスである。終盤は「薄れゆく意識」のように徐々に音量が下がっていく。
8 Killing an Arab
「蛇使い」ようなミステリアスなアルペジオと「リズミカルな忍足」のようなベースラインが印象的であり、タイトル通り「濃厚なアラブの匂い」がする音響を前面に押し出したマニアックソング。他のアーティストであれば「マニアック」という印象のみをリスナーに与える曲で終わると思うのだが、この「非売れ線・空間系ソング」を「アブノーマルだが良質なポップチューン」に変換できる点がキュアー(CURE)を唯一無二の存在たらしめる要因なのであろう。
9 Fire in Cairo
「海辺」のようなブルーを感じるギターポップ。全てのパートが「最小限の音」だけを鳴らしており、まるで「モダンでミニマムな絵画を見ている」ような気分になる曲である。
11 Grinding Halt
ベースラインが「リフを弾き」ギターは「空間構築に徹する」という「ニューウェイヴ文法」が印象的なポップソング。この曲も最小限の音数で鳴らされた曲となっており「モダンで鋭角的」という表現がピッタリであると感じる。
12 Three Imaginary Boys
サイケな気だるさと「幻の都」のような揺らめきを感じるアブノーマルなバラード(1:58〜)「抑えていた感情を解き放つ」ようなオリエンタルでエモーショナルなギターソロが登場。