前作「Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me」がキャリアの集大成的な大ボリュームな内容であった為「次はどんなサウンドを聴かせてくれるのだろう」と多くの音楽ファンが注目したに違いないキュアー (The Cure)の8thアルバム。
「世界的な成功を収めてビジネスのレールに乗って丸くなるのだろうか?!」というファンの不安をあざ笑うかのように、原点回帰的なミニマリズムを強調したサウンドを展開している。「ダーク」「ミステリアス」「耽美」「メランコリック」と形容したくなるキュアー (The Cure)サウンドだが本作に収録されている全ての曲から「豊かな色彩」を感じる事ができる。
キュアー (The Cure)がアメリカで大成功を果たした要因は様々あるのだろうが「唯一無二な耽美サウンド」だけではなく「シュール過ぎる詞の世界」の存在も非常に大きいのだと思う。筆者は音楽レビューを書く際は音楽を聴きながら歌詞も当然チェックするのだが、正直、キュアー (The Cure)ほど意味不明な歌詞で溢れているアーティトは中々いない。
彼らは「アーティスト過ぎて、その商業性のなさが「レアキャラ」としてセールスに繋がる」というアーティストとしての理想的なモデルケースなのかもしれない。
「曲解説」
1 Plainsong
「ゴージャスで耽美なテーマパーク」のようなキラキラ感が眩しいスローなオープニング。高音が強調されたエフェクティヴなベースラインがゆったりとした旋律を奏で神聖なストリングスが曲に奥深さを与えている。
2 Pictures of You
初期のサウンドを彷彿とさせるミニマムな構造の曲だが、キャリアを重ねた余裕なのだろうか?!非常にディープでスローな展開となっている。ギターサウンドは時折「キラメク星々」のように眩しく響き渡る。この眩しい質感は初期のキュアー (The Cure)サウンドにはないものである。
3 Closedown
「神秘の祭典」のようなミステリアスな雰囲気を醸し出す曲でシンセが「透明な光の壁」のようなサウンドを奏でる。
4 Lovesong
「耽美」と「ビーチ」のような開放感が同居しているメランコリックチューン。ツインギターは「左右で全く事なる鋭角的なフレーズ」を奏でている。この辺りの方法論はルナシー(LUNASEA)などの日本のV系アーティストにも影響を与えたと思われる。またロバート・スミス(vo)の声は「性行為後」のような脱力を感じさせるものとなっている。
5 Last Dance
シンセが奏でる「神秘的で真っ白な音響」の中をベースラインがクネるように動きまくる曲。歌詞は相変わらず意味不明である。
7 Fascination Street
立体的でツヤのあるベースが「刻むリフ」を奏で、コーラスをふんだんに効かせたギターサウンドが「異空間」のような雰囲気を演出するキュアー (The Cure)らしい曲で終盤は「万華鏡」のような「雅」でバグったサイケを感じる事ができる。
9 The Same Deep Water as You
「大雨が降り注ぐ」ようなアシッドな音響と壮大なストリングスを中心に展開されるバラード。歌詞にも「深海」(deep water)というフレーズが登場する。「キスします」というフレーズが頻出するがワードのポップさとは裏腹にポップの「ポ」の文字もないサウンドとなっている。タイトル通りの「深海」を思わせる「ディープな音世界」が見事である。
10 Disintegration
硬質なビートとディープにうねるベースラインを中心に展開される耽美チューン。「沈む」ようなダークな音響が印象的ではあるが、直線的なデジタルビートを上手く取り入れており、メランコリックではあるが「ダンスミュージック」のようなノリの良さもある。8分超えの長尺ではあるがダレる事なく最後まで「シリアスな緊張感」が保たれている。
12 Untitled
「どこまでも続く田園風景」のようなメロウチューン。歌詞は救いようのないものとなっており「自分の中にいるモンスターが自分の心をかじる為、二度とあなたの夢を見ない」というものである。本曲に限らずキュアー (The Cure)の歌詞は難解なものが多く「一般的な感性」の人が一聴しただけでは意味が分からないモノが多い。