前作「Concentration 20」は90年代オルタナ的なエッジを感じるアルバムであったが今作は「宙を舞うような電子音」を大胆に導入しており多くの曲でメランコリックな雰囲気を感じる事ができる。
おそらく和製R&Bを意識していると思われるボーカルラインのメロディーは全前作・前作と比べてどこかマニアックな響きがあると感じる。TKブームの終焉、宇多田ヒカル・椎名林檎・MISIAなどの新感覚・女性アーティストの出現により、90年代TKサウンドからの脱却を図っていた時期であると思われる時期にリリースされた今作は、「売れなくてはいけない」だが「過去のサウンドやメロディーの焼き回しは嫌だ」というTKの苦悩が詰まっていると感じる。
「曲解説」
2 LOVE 2000
立体的でメタリックなブレイクビーツで攻めまくるエレクトロ・ロック。歌詞の内容は「いまだに戦争が起きる不条理な世界に対する嘆き」といったところ(4:33〜)モノトーンで冷めた質感の電子音の登場と共にビートが「雪崩」のようにリスナーに迫ってくる。
3 RESPECT the POWER OF LOVE
アーバンなソウルミュージックにロック的な熱量を加えた曲でディレイをかけたギターサウンドが「早朝の空を羽ばたく鳥」のように空間を舞う。ロック色の強い曲だが「灼熱の風」のような女性コーラスが曲にコクを与えている。
4 LEAVIN' for LAS VEGAS
「モザイク越しに見た気怠い午後」のようなデジタルファンク。「リラックスした雰囲気のギターカッティング」と「縮れた質感のベース音」がメインとなって構成されている曲で終始淡々とした展開となっている。アルバムの中での「ちょっと休憩」というポジションの曲である。
5 SOMETHING 'BOUT THE KISS
「2 LOVE 2000」同様にオリエンタルなメランコリックを感じる「舞う」ような電子音をフィーチャーしたR&B。歌詞の内容はざっくり言うと「愛情は言うだけでは伝わらない、kissも大事だ」というイメージ。安室 奈美恵の歌声は熱量よりクールネスを強調したものとなっており、これまでにはない質感となっている。
6 I HAVE NEVER SEEN
「どんよりとした曇り空」を連想するエレクトロポップ。安室 奈美恵の歌声は「ガラス越し」のような質感で不思議な透明感がありビートはエレクトロニカ以降の小刻みなリズムアプローチとなっている。最後は「全てが光に包まれる」ように視界が揺らめく展開となり幕を閉じる。
8 MI CORAZON (TE'AMOUR)
メランコリックなスパニュシュギターが時折挿入され「ラテンな風」を感じる軽快なハウスチューン(3:28〜)ゴージャスで華やかなホーンセクション、優雅な女性コーラスがボーカルラインと絡まり最高潮を迎える。
9 YOU ARE THE ONE featuring IMAJIN
「夕暮れの海辺」のような哀愁とメランコリックを感じるエモーショナルポップ。この曲でも「8 MI CORAZON (TE'AMOUR)」同様にスパニッシュな質感のギターワークを大胆に導入している。また「IMAJIN」というソウルフルな男性ボーカリストをフィーチャーしておりコーラスにラップに縦横無尽の活躍を見せる(2:42〜)「夢なんて見るもんじゃない!」と尖っていた少女とは思えない「ヒロイックなオペラ調」のような歌声でサビのメロディーを奏でるパートが登場。僅か5年でここまで洗練されるものなのか?!と驚愕する。
10 KISS-AND-RIDE
トリップホップの創始者マッシヴ・アタック(Massive Attack)に多大な影響を受けたと思われ、ディープでどっしりとしたベースラインを中心に展開されるメランコリックソング。サウンドに呼応するかのように「憂鬱そうなビジネスマン」なるフレーズも登場。安室 奈美恵の歌声には揺れるような質感のエフェクトがかけられている。
13 ASKING WHY
「ゆらりと宙を舞う」ような浮遊感を感じるポップソング(0:42〜)揺らめく牧歌的な電子音がどこか口笛のような質感で鳴り響き(1:04〜)タイトなドラムの登場と共にサビに突入するがサビのボーカルラインは「少し沈んだ」ようなメロディーを奏でるというマニアックな展開(3:26〜)「透明な雫が降り注ぐ」ようなピアノサウンドが曲に透明感を与え一気に熱量を高める。
14 GIVE IT A TRY
清々しい孤独を感じるバラード。物悲しいピアノが中心となるサウンドで「誰もいない夜の公園」のような雰囲気がある。歌詞の内容は「人に心を許している自分にびっくりしつつも、ずっと一緒にいようと願う」という内容である。